ムーブメントはどう広がるのか

リスボンで、日本の原子力について何度も質問を受けました。なぜ再稼働にはこれほど時間がかかるのか。福島の事故から15年が経った今、日本人は原子力をどう見ているのか。政治家、地域社会、電力会社、規制当局は、それぞれどんな役割を持っているのか。私も日本の状況を説明しながら、逆に各国では誰が原子力について話し、どうやって人々の理解や政治を動かしてきたのかを聞きました。

参加していたのは、Stand Up for Nuclearがリスボンで開催した「Nuclear Champions Retreat」です。12カ国から、エンジニア、政策の専門家、キャンペーンや情報発信に携わる人、地域で活動する人たちが集まりました。私は日本人の科学分野の仲間と参加し、2日半にわたるディスカッションの中で日本の立場を伝えました。政治家への働きかけを続けてきた人、ジャーナリストとの関係を築いてきた人、地域社会に入って活動してきた人、特定の原子力発電所をめぐって動いてきた人もいました。話を聞いていると、それぞれの国で原子力をめぐる状況は違っても、人にどう伝え、どう信頼を築くかという部分には、いくつもの共通する話がありました。

その中でも印象に残った例の一つがアイルランドです。Sarah Cullen氏が共同設立した18for0は、アイルランド西部にある出力915MWのMoneypoint石炭火力発電所に代わる電源を検討する研究から始まりました。初期の活動は技術的な内容が中心で、報告書は最終的に40〜50ページほどになったそうです。原子力がエネルギー政策の議論にほとんど入っていなかったアイルランドで、原子力も真剣に検討する価値があることを示そうとしていました。

その後、18for0は人と直接会う活動にも力を入れるようになりました。環境関連の集まりや地域イベント、政治関係の会合に参加し、原子力についてさまざまな考えを持つ人たちとの関係を築いていきました。そこから新しい人を紹介してもらったり、話をする機会やミーティングにつながったりしました。リトリートで紹介された事例では、信頼関係のある政治関係者を通じて渡された1ページの短い資料が、大規模な公開ワークショップよりも、必要な人たちに効果的に届いたこともあったそうです。

この話は特に印象に残りました。原子力の話は、すぐに専門的になりがちです。多くの人は、日常的にエネルギーに関する報告書を読んだり、原子炉政策を追ったりしているわけではありません。気候変動、電気料金、仕事、電力が安定して使えるのか、そして自分たちの子どもが将来どのようなエネルギーシステムの中で暮らすのか。普段の生活の中では、そうしたことの方が身近です。原子力が将来の選択肢の一つになるのであれば、その理由を普通の言葉で理解できることが大切だと思います。

ノルウェーの原子力推進団体は、保守、環境、労働など幅広い政治的立場の人たちと意識的に関係を築いていました。若手政治家や環境活動に関わる人たちも含まれています。原子力について、政治的な立場を超えて真剣に話せる環境をつくろうとしていました。そして、人によって原子力に関心を持つ理由も違います。気候変動を重視する人もいれば、エネルギー安全保障、雇用、産業、電気料金に強い関心を持つ人もいます。

政治的な支持についての議論では、私から日本の状況を説明しました。なぜ地域の合意に時間がかかるのか、世論はどの程度変化しているのか、2011年の経験が今の議論にどれほど影響しているのか、といった質問を受けました。地域社会、規制当局、電力会社、国の政治がそれぞれどのような役割を持っているのか、そして東京で政策が決まったからといって、すぐに原子炉が再稼働するわけではないことなどを話しました。

デンマークの経験からは、比較的小さな団体でも、活動を続けることで大きな存在感を持てることが分かりました。あるデンマークの主催者によると、その団体には約1,000人の有料会員がいて、年間予算はおよそ4万ユーロ、大きなイベントで実際に活動するボランティアは10〜20人ほどだそうです。それでも、政治イベントへの参加、メディア出演、教育活動、文化イベント、ジャーナリストとの継続的な交流を通じて、広く知られる存在になっていました。

メディアへのアプローチも、とても現実的でした。エネルギーに関心を持っているジャーナリストを探し、その人が普段どんなテーマを取材しているのかを知り、記事に使いやすい情報を提供する。ひとりのジャーナリストと良い関係を築くことが、より深い報道や、より良い問いにつながることもあります。時間のかかる活動ですが、関係が続くほど価値が大きくなっていくと、複数の参加者が話していました。

イベントでは、また違った形で人と接することができます。デンマークの活動家たちは、目立つデザインを使ってフェスティバルや政治イベントに参加していました。アイルランドの参加者からは、環境問題に関心のあるコミュニティに実際に入り、人と直接会うことの大切さについて話がありました。こうした場所では、気軽に質問したり、心配していることを話したり、一度離れてからまた話を聞きに来たりできます。電気料金や気候変動といった身近な話から会話を始めることもできます。

アメリカ・カリフォルニア州のDiablo Canyon原子力発電所をめぐる活動についても話がありました。ある主催者によると、活動のある時期には、目に見える形で中心となっていた支援者は約120人だったそうです。その周りには、地方自治体の関係者、発電所で働く人たち、先住民コミュニティの代表、非営利団体、ジャーナリスト、女性の活動家、産業界の人たちなど、さらに幅広い人々が参加していました。発電所や地域との関わり方が異なる人たちが、それぞれ自分の言葉で話すことで、活動にも厚みが生まれていました。

誰が話すのかは大切です。地元の経営者なら雇用について話すことができます。発電所の近くに住む人なら、自分自身の経験を伝えられます。そこで働く人なら、発電所が地域経済にとってどんな存在なのかを説明できます。科学者なら技術的な疑問に答えられます。若い世代なら、気候変動や自分たちの将来という視点から話すことができます。話す人によって、聞く側の受け止め方も変わります。

日本ではどうなのか、私も何度か質問されました。人々は誰の話を聞くのか。誰の言葉に重みがあるのか。地域のリーダー、専門家、電力会社、規制当局、メディア、政治家は、それぞれどのような影響を持っているのか。そうした質問を受けながら、日本では原子力について話す人が、今もエネルギー業界の中にいる人たちに偏りがちなのではないかと考えました。

日本には、安全やエネルギー政策について長年取り組んできた優秀なエンジニア、規制当局の関係者、研究者、産業界の専門家が大勢います。そして、若い世代、地域の企業、原子力施設の近くで暮らす人たち、地方で働く人たち、気候変動や安定したエネルギー供給に関心を持つ人たちもいます。そうした人たちの声がもっと聞こえるようになれば、原子力というテーマも日々の暮らしとつながったものとして考えやすくなると思います。

リトリートでもう一つ興味深かったのは、全国的な世論調査の数字だけを見ても、実際にどこで物事が決まっているのかまでは分からないという話でした。政党のエネルギー政策を実際に作っているのは、限られた人数かもしれません。原子炉の再稼働には、規制当局、自治体、電力会社、発電所周辺の地域社会が関わります。新聞で取り上げられるかどうかも、ひとりの編集者の判断がきっかけになることがあります。参加者の中には、短い資料、少人数での面談、現地視察、直接の紹介などを通じて、実際に意思決定に関わる人たちと話している人もいました。

こうした団体をつくり、活動を続ける方法は、意外とシンプルな部分もありました。それぞれが自分の得意なことを生かします。エンジニアは技術的な質問に答え、法律の専門家は政策面を支え、デザイナーは情報を分かりやすくします。地域をよく知る人はイベントを企画したり、人を紹介したりします。新しく興味を持った人が参加しやすい小さな役割を用意し、誰かが手伝いたいと言ってくれたら、きちんと連絡を返すことも大切だと話していました。

リトリートの間、私はこうした事例を何度も日本と照らし合わせて考えていました。そのまま日本でも使えそうなアイデアもあれば、日本に合う形にかなり変える必要がありそうなものもありました。特に原子力のようなテーマでは、日本では人間関係や評判、丁寧なコミュニケーションが大きな意味を持ちます。日本で何かを進めるのであれば、実際に人々がどのように話し、判断し、信頼関係をつくっていくのかを考える必要があります。

リスボンで会った人たちは、何年もかけて報告書を書き、イベントを開き、政治家と会い、ジャーナリストと話し、地域の人たちとの関係を築いてきました。前進するきっかけは、小さなことから生まれる場合もあります。ジャーナリストが関心を持つ。政治家が面会に応じる。環境団体が話を聞くようになる。地域の団体が活動に参加する。そうした一つ一つが、次につながっていました。

今回、日本の状況を自分から説明しながら、他の国の経験を直接聞けたことで、日本で何ができるのかを考える良い機会になりました。日本の原子力をめぐる議論も、専門的な内容を大切にしながら、もっと多くの人が理解し、参加できるものにしていけると思います。気候変動、エネルギー安全保障、地域の雇用、そして自分たちが暮らす地域の将来に関心を持つ人たちも、その議論に参加できます。

原子力は、私たちが普段から気にしている問題とつながっています。そのつながりを分かりやすく伝え、さまざまな立場の人が話に加わることで、日本で原子力がどのような役割を担うのかについて、より多くの人が一緒に考えられるようになると思います。

Taiga Cogger

Got Nuclear
A Project of the Anthropocene Institute