東へ動く地図

原子力は、気づかないうちに気候変動の議論の中心に戻ってきました。大げさな「復活」という言葉ではなく、もっと実務的な問いとしてです。
世界が急いで排出を減らさなければならない中で、原子力はどこに位置づくのか。

答えは単純ではありません。原子力発電は、大規模に利用できる電源の中では最も低炭素な部類に入ります。運転が始まれば、二酸化炭素をほとんど排出せずに大量の電力を生み出します。現在、世界の電力の約1割を担い、低炭素電源の約4分の1を占めています。この存在感は、どの脱炭素シナリオにおいても無視できません。

その一方で、原子力には特有のリスクとトレードオフがあります。事故は稀であっても影響は大きく、人々の記憶に強く残ります。放射性廃棄物の問題も、政治的に繊細な課題です。建設費が膨らみ、完成までに長い時間を要することもあります。ドイツのように、そうしたリスクを受け入れられないと判断した国もあります。

では、世界では実際に何が起きているのでしょうか。

現在、世界では60基以上の原子炉が建設中で、さらに100基以上が具体的な計画段階にあります。注目すべきなのは、その地理的な変化です。原子力が消えているわけではありませんが、「誰が」「なぜ」建てているのかが変わっています。

新規建設を主導しているのはアジアです。中国では約20数基の原子炉が建設中で、この10年で多数の原子炉が送電網に接続されました。同時に、中国は世界最大規模で太陽光発電も拡大しています。再生可能エネルギーと原子力のどちらかを選ぶのではなく、両方を進めているのです。石炭依存を減らしつつ、大規模な産業経済を安定的に支えるという、極めて実務的な戦略といえます。

インドも同様です。家庭や産業が次々と電力網につながり、需要は急増しています。太陽光の導入も急速に進んでいますが、それと並行して原子炉の建設も進めています。変動する再生可能エネルギーだけでは、長期的な経済成長を支えきれないという判断があるからです。

ここで重要になるのが「安定電源」という考え方です。これは、天候に左右されず、いつでも確実に供給できる電力を意味します。電気自動車や工場、データセンターが増えるほど、電力の安定性はより重要になります。原子力は、大規模かつ低炭素でその役割を果たせる数少ない選択肢の一つです。

ヨーロッパの状況はより多様です。フランスは電力の約7割を原子力に依存しており、世界でも最も低炭素な電力システムの一つを維持しています。老朽化する原子炉に代わる新設計画として、少なくとも6基の新型炉建設が承認されています。これは拡大というより、低炭素体制を維持するための更新です。

一方、石炭依存の高いポーランドは、初の原子力発電所建設に向けて契約を結びました。排出削減とエネルギー安全保障を同時に進めるための構造的転換といえます。

アメリカでは、長年停滞していた大型炉が最近ようやく商業運転を開始しました。課題も多かったものの、大規模建設が不可能ではないことを示しました。同時に、より小型で建設リスクを抑えられるとされる新型炉の開発も進められています。

アラブ首長国連邦はさらに象徴的な例です。わずか10年余りで4基の原子炉を稼働させ、現在では電力の約4分の1を原子力が担っています。一定量のクリーンで常時供給可能な電力を、明確な期限のもとで確保するという選択でした。

これらを並べて見ると、劇的な「復活」というよりも、静かな移動が起きていることが分かります。成長は特定の地域に集中し、多くの場合、再生可能エネルギーの拡大と並行して進められています。原子力は単独の解決策ではなく、複数の電源を組み合わせる中の一要素として位置づけられています。

気候対策という観点では、速度、コスト、そして信頼が鍵になります。建設に時間がかかりすぎれば、温暖化対策としての効果は限定的になります。安全性への信頼が揺らげば、社会的な支持も失われます。これらは無視できない制約です。

それでも、多くの国が電力需要の増加と排出削減の両立を迫られる中で、原子力を選択肢から外してはいません。むしろ、エネルギー戦略の中でどう位置づけるかを再調整しています。

原子力の地図は、消えているのではなく、東へと動いています。
この変化を理解することは、賛成や反対を即座に決めることとは違います。ただ、脱炭素を目指す世界の中で、原子力が依然として建設され続けているという事実を、冷静に見るということです。

Taiga Cogger

Got Nuclear
A Project of the Anthropocene Institute