私は日本からリスボンへ渡り、Stand Up for Nuclearが主催する「Nuclear Champions Retreat」というイベントに参加しました。今回が初開催で、2日半にわたり、ヨーロッパ、北米、アジアの12カ国から17人の参加者と10人のスピーカーが集まりました。テーマは、草の根の活動、社会とのコミュニケーション、エネルギー政策など多岐にわたり、実際の意見交換の多くは、ワーキングセッションや少人数のグループ、そしてその合間に続く会話の中で行われました。私は日本の立場を伝える役割も担い、日本のエネルギー政策について話し、国内の原子力をめぐる質問に答えながら、まったく異なる歴史を持つ国々で同じ課題がどう扱われているのかを学びました。
各国の違いは、それぞれが自国で直面している現実について話し始めると、より鮮明になりました。ノルウェーの参加者たちは、保守系、環境派、労働系の政治家、若者、環境活動家など、幅広い層に原子力への理解を広げようとしていました。選挙や政権交代があっても続いていくような、広い政治的基盤をつくることが狙いです。デンマークにはまったく異なる歴史があります。風力発電は長年にわたり国の環境政策や国民意識と深く結びつき、1985年には国会が原子力を国家のエネルギー計画から外しました。それでも近年、世論は大きく動いています。リトリートで紹介された世論調査では、国内で原子力発電を建設することへの支持は、2016年の約17%から2025年初めには約55%まで上昇していました。
アイルランドでは、商業用の原子力発電所が一度も運転されたことがなく、法制度上も導入が制約されてきました。そのため、現地の活動家たちは、ジャーナリスト、政治家、環境団体の間で原子力を真剣に議論できる場そのものをつくるところから取り組んできました。ドイツには、さらに長い政治的な歴史があります。最後の3基の原子炉は2023年4月15日に停止しました。長年にわたる反原発運動、政党政治、そしてエネルギー転換政策の積み重ねが、その決定につながっています。
開催地のポルトガルも、この議論にもう一つの視点を与えていました。ポルトガルは、水力、風力、そして近年急速に拡大する太陽光を軸に、再生可能エネルギーを強く推進してきた国です。国際エネルギー機関(IEA)の2026年のレビューでは、ポルトガルはIEA加盟国の中でも電力の低炭素化が進んだ国の一つとされています。その一方で、再生可能エネルギーの拡大と電化が進むにつれ、送配電網への負荷も高まっています。分散型太陽光発電は2026年初めまでに3.1GWに達し、IEAは、ネットワーク整備や柔軟性への投資が追いつかなければ、出力抑制や接続の遅れが増える可能性を指摘しています。
リスボンでは、日本に対する関心も非常に高いものでした。どの政党が原発再稼働を支持しているのか、どこに政治的な抵抗が残っているのか、世論はどう変わってきたのか、なぜ再稼働に長い時間がかかるのか、そして福島の事故が現在のエネルギー政策の言葉にどれほど影響を与えているのか。そうした質問を多く受けました。地域の同意、規制、エネルギー安全保障、そして国の方針と個別のサイトで実際に実現できることの間に生じる差についても話しました。
日本の状況は、単純に一つの政治的な立場にまとめることができません。現在のエネルギー政策では、2040年度の電源構成として、原子力を約20%、再生可能エネルギーを40〜50%としています。また、安全性が確認された原子炉の再稼働や、次世代型の革新炉の開発も政策に盛り込まれています。こうした数字を現実のものにするには、規制当局、地域社会、電力会社、投資、送電網の整備、そして2011年の経験を今も強く抱える政治環境のすべてが関係します。
リスボンでは、政策以上に、コミュニケーションの違いも印象的でした。政治運動や政党との関わり、世論形成、政治家にどう働きかけるかについて、非常に率直に話す参加者もいました。工学、経済、環境政策の立場から参加し、電力価格、産業競争力、土地利用、排出量といった視点から原子力を考える人たちもいました。日本では、原子力をめぐる議論は、特に安全性、地域社会、福島の事故に関わる話題になると、より慎重な言葉で進むことが多いと思います。同じテーブルを囲みながら、これほど違う話し方や考え方に触れることで、エネルギーをめぐる議論が、それぞれの国の文化にどれほど強く影響されているのかがよく見えてきました。
電力市場についても多くの時間が使われ、特にドイツとデンマークの事例がよく取り上げられました。ドイツでは、2025年に卸電力価格がマイナスとなった時間が573時間あり、2024年の457時間から増えています。年間の約6.5%の時間で価格がゼロを下回ったことになります。その一方で、ドイツの日前市場の平均卸価格は、2024年の1MWh当たり78.51ユーロから、2025年には89.32ユーロへ上昇しました。電力が余る時間が年間に何百時間もあっても、年間平均の卸価格は高いままになることがあります。
ドイツではさらに、2025年に送電網の混雑対応や需給バランス維持のための再給電や予備力対策に、約30億6,000万ユーロが使われました。こうした数字があることで、議論は抽象的なエネルギー論から、実際の電力システムがどう動くのかという話に一気に具体化します。
風力と太陽光は、条件が良い時には大量の低炭素電力を生み出します。2025年には、EU全体で風力と太陽光を合わせて約30%の電力を供給しました。大量の電力が同じ時間帯に生まれると、その電力をどこかで吸収する必要があります。需要側で使うこともできます。別の地域へ送電することもできます。蓄電池に充電することもできます。工場などが消費時間を安い時間帯へ移すこともできます。電力系統が吸収できる量を超えれば、系統運用者が出力を抑制する場合もあります。
リスボンでは、Contracts for Difference、いわゆるCFDについても議論しました。CFDは、発電事業者にあらかじめ定めたストライク価格を設定し、変動の大きい電力市場の中で収入を安定させる仕組みです。出力抑制が発生すると、発電できる状態にある設備が、系統上の理由から発電量を減らすよう指示されることがあります。その際の金銭的な扱いは市場や契約によって異なるため、制度設計そのものが、単純な導入容量の数字と同じくらい重要になります。
蓄電池は、余った電力を吸収し、需要や価格が高まった時間帯に放電することができます。その商業価値の一部は、安い時間と高い時間の価格差から生まれます。多くの蓄電池が同じ価格シグナルに反応するようになると、その価格差自体が縮まり、追加の蓄電投資の採算性も変わってきます。蓄電池の価値は、どのくらいの時間放電できるのか、どこに設置されているのか、どのような時間帯に充電するのか、そして系統が実際にどんな機能を必要としているのかによって決まります。
送電にも独自のコストがあります。再生可能エネルギーの資源は、大都市や大規模な需要地から離れた場所に集中することが多く、大規模に導入するほど送電網への投資も必要になります。ポルトガルでは、太陽光と電化の拡大に伴って、すでにこの問題が表れています。ドイツではさらに大きな規模で、北部に多くの発電設備があり、南部には大きな産業需要があります。発電設備そのものは、電気を実際に使える形で届けるために必要なインフラの一部にすぎません。
既存の原子力発電所は、このシステムの中で少し違う位置にあります。すでに系統に接続されている原子力発電所には、サイト、送電接続、技術者、周辺インフラが存在し、それらを整備するために長い年月と大きな資本が使われてきました。そうした発電所を停止すれば、それまで安定的に供給していた電力を、システムのどこかで補う必要があります。
その代替には、新たな発電設備、追加の送電網、蓄電、需要側の柔軟性、そして天候に左右される発電量が低い時に使える安定電源など、複数の要素が関わります。どれが使えるかは国によって大きく異なります。ノルウェーには豊富な水力資源があります。デンマークは風況に恵まれ、近隣諸国との系統連系も強力です。ポルトガルには水力、風力、太陽光があり、イベリア半島の広域市場にも接続しています。日本は地理条件が大きく異なり、近隣国との物理的な電力接続もほとんどありません。
日本は島国で、国内の化石燃料資源が限られ、平地も多くありません。経済には大量の電力を必要とする製造業があり、人口の集中した都市圏があり、安定した電力供給を前提に動く産業が数多くあります。これからは、データセンター、人工知能、電化、デジタルインフラの拡大によって、電力需要そのものがさらに変化していく可能性があります。
日本の2040年度の見通しでは、原子力を約20%、再生可能エネルギーを40〜50%、火力を30〜40%としています。原子力で20%を実現するには、現在の稼働状況から大幅に増やす必要があります。2026年初めの時点で、国内で稼働していた原子炉は15基です。
独立した分析を見ると、政府目標の実現がどれほど厳しいかも分かります。再生可能エネルギーのより大きな活用を主張する自然エネルギー財団は、2026年4月に複数のシナリオを公表しました。その中で2040年度に原子力20%へ到達するのは「Maximum」シナリオだけです。このシナリオでは、既存および計画中の原子炉のほぼすべてが稼働し、60年を超える運転が認められ、設備利用率が85%に達することが前提になっています。2020〜2024年の再稼働原子炉の平均設備利用率は73.7%で、現在世界で最も長く運転している原子炉でも運転年数は56年です。
残る原子炉の状況も一様ではありません。規制審査を終え、運転再開に向けて準備しているものもあります。審査中のものや、技術面、規制面で大きな課題を抱えているものもあります。敦賀2号機はその分かりやすい例です。原子力規制委員会は2024年11月、原子炉建屋の下を通る破砕帯と活断層との連続性を否定できないとして、再稼働に向けた申請を不許可としました。
政府が掲げる20%という数字は、日本がどこを目指しているのかを示す政策上の方向性です。実際の結果は、何基の原子炉が規制をクリアして運転に戻れるか、どこまで再生可能エネルギーを建設して系統につなげられるか、送電網や蓄電がどこまで整備されるか、そして今後15年ほどで電力需要がどう変わるかによって決まります。将来の電源構成のどの部分についても、同じように現実的な条件を見ていく必要があります。
何日間も、これほど異なる国でエネルギー政策に関わっている人たちと過ごすと、それぞれの電力システムが、何十年にもわたる選択の積み重ねでできていることがよく見えてきます。デンマークでは風力がエネルギーシステムだけでなく国民意識の一部にもなっています。ドイツは原子力からの撤退を完了した後、高い再生可能エネルギー比率を持つ系統を運営しています。ノルウェーには、他国にはないほど豊富な水力資源があります。ポルトガルは再生可能エネルギーをさらに拡大し、その成長に伴う系統への負荷にも向き合い始めています。日本には、限られた国内エネルギー資源、大規模な原子力インフラ、規制と地域同意の難しさ、そして国外との電力接続がほとんどないという独自の条件があります。
リスボンでの会話が有意義だったのは、すでに実際に構築された電力システムや、すでに試されてきた政策を持ち寄って比較できたことです。エネルギー計画の中では、20%、40%、50%という数字は明快に見えます。実現するには、原子炉が規制を通過して安定的に運転し、再生可能エネルギーのプロジェクトが土地と系統接続を確保し、蓄電が必要な機能を果たし、送電網が発電地から需要地まで電気を運ばなければなりません。その間にも、電力需要そのものが変わっていきます。
日本はこれから、自国に合った選択をしていくことになります。他国の経験を見ることで、その選択が現実の中でどのような結果につながるのかを、より広い視点から考えることができます。エネルギー目標は、実際に建設が始まり、電気が現実の送電網を流れ始めた瞬間に、工学、経済、地理、政治、そして社会からの信頼という具体的な問題になります。今後、日本のエネルギーシステムを形づくるのは、まさにそうした現実の積み重ねです。