日本では、船はあまりに身近な存在であるため、普段はほとんど意識されません。タンカーが港に入り、コンテナ船が水平線を横切り、横浜、神戸、名古屋をはじめ、全国の大小さまざまな港で毎日貨物が運ばれています。サプライチェーンが途切れたり、燃料価格が上昇したり、国際情勢の緊張によって航路が脅かされたりしたときになって初めて、私たちの暮らしのどれほど多くが海を渡って届いているのかを思い出します。
海に依存していることは、日本の弱さではありません。むしろ、それは日本という国を形づくってきた大切な一部です。何世紀にもわたり、海は食料をもたらし、交易を支え、世界との交流を可能にしてきました。近代日本もまた、海運や造船、そして海外から輸入した資源に付加価値を与え、世界で求められる製品へと変える力によって、大きな繁栄を築いてきました。
化石燃料への依存を減らそうとする世界で、次に問われるのは、これからの船を何で動かすのかということです。
海運は、エネルギー転換の中でも特に難しい分野の一つです。大型船は非常に長い距離を航行するため、目的地まで到達するのに必要なエネルギーを船内に積んでおかなければなりません。フェリーや港湾内を航行する船、一部の短距離航路では、バッテリーが有効な選択肢になります。しかし、太平洋を横断するコンテナ船となれば、話は大きく異なります。大量のバッテリーを積めば、その重量と容積によって、本来貨物を積むはずのスペースが圧迫されてしまいます。
水素、アンモニア、メタノールにも大きな期待が寄せられています。それぞれに役割があるでしょう。しかし、これらの燃料は製造し、輸送し、貯蔵したうえで、世界各地の港で供給できるようにしなければなりません。低排出で製造するには、大量のクリーン電力も必要です。技術的には可能でも、それを世界規模の仕組みとして整備するには、長い時間と多額の費用がかかります。
だからこそ、原子力船への関心が再び高まっていることを、先入観なく検討する価値があります。
2026年7月、米国カリフォルニア州のロングビーチ港は、米国運輸省海事局との間で法的拘束力を持たない協力覚書を締結し、港湾、船舶、その他の海事インフラにおける小型モジュール炉の活用可能性について調査を始めました。原子炉の建設が承認されたわけではなく、どちらかが建設を約束したわけでもありません。それでも、この合意には意味があります。ロングビーチは原子力技術を宣伝する研究機関ではなく、現実のエネルギー問題に向き合っている大規模な商業港だからです。
港では、クレーンや荷役機械、トラックの電動化が進んでいます。停泊中の船がエンジンを停止し、陸上から供給される電力を使用する機会も増えていくでしょう。これは港の周辺に暮らす人々の大気環境を改善するうえで望ましい変化です。その一方で、土地が限られ、昼夜を問わず稼働する港湾地域に、新たな大規模電力需要を生み出します。
風力や太陽光は、その電力の一部を供給できます。蓄電設備の拡充や送電網の強化も役立ちます。小型原子炉が提供できるのは、それらとは異なる価値です。限られた敷地で、低炭素の電力を安定して供給し続けられる可能性があります。当然ながら、実際に適しているかどうかは、それぞれの港の条件に応じて慎重に検討する必要があります。しかし、詳しく調べる前から可能性を退けてしまう理由はありません。
船そのものを原子力で動かす技術も前進しています。2025年、船級協会のDNVは、小型モジュール炉を動力源とする韓国の1万5,000TEU級コンテナ船構想に対し、基本承認を与えました。これは初期段階の技術的な節目であり、商船の建造や運航が認可されたことを意味するものではありません。それでも、この構想が魅力的なイメージ図だけの段階を越え、より詳細な技術検討に進める水準に達したことを示しています。
原子力推進の魅力は明確です。核燃料は、非常に小さな体積の中に膨大なエネルギーを蓄えています。理論上、原子力を動力とする貨物船は、石油を燃料とする船のように頻繁な補給を行わず、何年にもわたって航行できる可能性があります。航海中に燃料を燃焼させないため、そこから二酸化炭素が排出されることもありません。
各国の海軍では、何十年にもわたり原子力推進が使われてきました。しかし、商船の世界は軍艦とは異なります。商船は国境を越えて航行し、厳しいコスト競争の中で運航されています。船の所有国、船籍国、運航会社、乗組員の国籍がすべて異なる場合もあります。技術的に優れた原子炉であっても、この複雑な国際システムの中で運用できなければ、商業的には成立しません。
規制上の問題も現実的です。原子力船が外国の港に入ったとき、誰が原子炉を検査するのでしょうか。事故が起きた場合、誰が責任を負うのでしょうか。修理はどこで行うのでしょうか。衝突、火災、座礁が起きた際には、どのような緊急対応体制が必要になるのでしょうか。
国際海事機関は1981年に、現在の原子力商船安全規則を採択しました。現在は、現代の原子炉技術に対応できるよう、この枠組みを改定する作業を進めています。現在の作業計画では、2030年ごろに改定規則と関連する条約改正を採択することが想定されていますが、実際の時期は国際交渉の進展によって変わる可能性があります。
規制と同じくらい重要になるのが、社会からの信頼です。港の近くで暮らす人々は、こうした船が安全に運航できることを示す具体的な証拠を求めるでしょう。核セキュリティ、使用済み燃料、緊急時の対応についても、当然ながら疑問を持つはずです。それらは正当な問いです。原子力技術の開発に携わる側は、反対が表面化した後で対応するのではなく、早い段階から情報を公開し、正面から答えていかなければなりません。
原子力が、あらゆる船に適しているわけではありません。フェリー、漁船、タンカー、コンテナ船では、必要とされる性能も運航条件も異なります。将来のクリーンな海運は、複数の燃料と技術を組み合わせたものになるでしょう。原子力は、まず大型船や特定の航路、あるいは大規模港湾への電力供給という形で役割を見いだすかもしれません。
日本は、その可能性を見極める取り組みに深く関わるべきです。
海運の経験、造船技術、原子力工学の知見を、これほど高い水準で併せ持つ国は多くありません。日本はまた、エネルギー安全保障が政策文書に書かれた目標だけでは成り立たず、実際に資源を運んでくる船、港、航路によって支えられていることを理解しています。
原子力商船が成功する可能性もあれば、広く普及するには費用が高すぎ、仕組みが複雑すぎるという結論に至る可能性もあります。答えはまだ出ていません。ただ、海と高度な技術の双方によって形づくられてきた日本が、その答えをすべて他国に委ねてしまうとすれば、それは不自然なことではないでしょうか。