先週、フランス最大級の原子力発電所を止めたのは、嵐でも地震でもありませんでした。襲ってきたのは数百万匹のクラゲ。クラヴリーヌ原発の取水口をふさぎ、冷却用の海水の流れを止めたのです。数分のうちに4基の原子炉が自動的に停止しましたが、これは危機ではなく、最新の安全システムが想定外の事態にきちんと対応したことを示す出来事となりました。
クラヴリーヌは西欧最大の原子力発電所で、400万世帯以上に電力を供給しています。その巨大施設がクラゲで止まっても、安全に制御できた事実は、システムの堅牢さを物語っています。
制御室では、冷却水の流量が低下したことを知らせるアラームが鳴りました。オペレーターの一人が計器を確認し、数値を見てから再び他のモニターに視線を戻します。すでに自動停止が始まっていたのです。
「原子炉防護システム」と呼ばれる、いわば原発のエアバッグのような仕組みが数秒で制御棒を炉心に挿入し、連鎖反応を止めました。残り熱を取り除く冷却水の循環も安定して続きました。まるで自動車のラジエーターがエンジンを冷やすように、ポンプと電源が働き続けたのです。しかもそれらは洪水の届かない高所の防水設備に守られており、外的要因で止まる心配はありません。技術者が取水口のクラゲを取り除く頃には、4基の原子炉はすでに冷却され、安定していました。
この一連の動きは「多重防護の考え方」の成果です。重要な機能には必ず複数の独立した守りを用意し、1つが失敗しても他が補う。まさに家庭に火災報知器、消火器、スプリンクラーを同時に備えるのと同じ発想です。
2011年の福島第一原発は対照的でした。高さ5.7メートルの防潮堤を14メートルの津波が越え、低地にあったディーゼル発電機が浸水で失われ、冷却機能を失ったのです。
クラヴリーヌは福島事故後に、既知の災害だけでなく自然の予測不能な脅威にも備えられるよう改修されました。同じ考え方は日本の原発にも導入されています。かつて原子力は日本の電力の約3割を担っていました。今の原発は、単に安全性を高めただけではなく、安定した低炭素電力を取り戻すための重要な道筋でもあります。女川では17メートルの防潮堤が新設され、発電機は高所の防水区画に収められました。高浜では複数の取水ルートを整備し、1つがふさがれても冷却が継続できます。伊方では非常用電源を高所に移設しました。世界最大の柏崎刈羽原発でも防潮堤のかさ上げや非常用電源の再設計が行われ、極端な状況でも冷却を維持できる体制が整っています。
もし日本のこうした最新の原発がクラゲの大群に襲われたとしても、クラヴリーヌと同じように、早期の検知、自動停止、安定した冷却が実現し、住民に危険が及ぶことはありません。結果は「事故」ではなく、単なる運転停止に過ぎないでしょう。
クラヴリーヌの出来事はただの珍しいニュースではありません。海洋学者によれば、海水温の上昇によってクラゲの大量発生は世界的に増えているといいます。つまり原発は、自然の予測不能なストレスに常に備える必要があるのです。そして日本の原発はすでにその備えを持っています。再稼働は過去への逆戻りではなく、より安全で、より持続可能で、そして強靭な未来への前進なのです。
数百万匹のクラゲでさえ止められなかった。それは、これからも原子力が自然の試練を乗り越えられるという確かな証拠です。