「原子力」と聞いて多くの人が最初に思い浮かべるのは、「廃棄物」かもしれません。何万年も放射線を出し続ける廃棄物が、ドラム缶に詰められて保管されている──そんなイメージはなかなか消えません。でも、その「廃棄物」が実はまだ使える資源だとしたら?都市に電力を供給し、排出を減らし、原子力をめぐる長年の懸念までも緩和する、そんな可能性を持っているとしたらどうでしょうか?
実際、世界ではフランス、日本、アメリカの一部などで、使用済み核燃料のリサイクルが進んでいます。高速炉やMOX(混合酸化物)燃料といった技術が、かつては「行き止まり」とされた燃料を、再び価値あるエネルギー源に変えようとしているのです。新たにウランを採掘したり、廃棄物を積み増すより、今あるものを賢く再利用する──そう考える専門家が増えています。
では、なぜいまだに「捨てる」選択が主流なのでしょうか?
実は、使用済み核燃料の約95%には、まだエネルギーが残っています。主にウランとプルトニウムです。長期的に隔離が必要な高レベル放射性廃棄物は、全体のごく一部です。日本のようにウラン資源がなく、国土も限られている国にとっては、これは非常に重要なポイントです。2023年時点で、日本が生み出した高レベル放射性廃棄物は約25,000トンですが、その多くが再利用可能です。
誤解:使用済み核燃料はもう使えない。
事実:実は約95%のエネルギーが残っています。
それでもなぜ捨てられているのか?その主な理由は、従来の原子炉では残されたエネルギーを取り出すことができないからです。そこで登場するのがリサイクルという選択肢です。
たとえるなら、コーヒー豆を半分しか使わずに捨てているようなもの。リサイクルとは、使用済み燃料からまだ使える「良い部分」(ウランやプルトニウム)を取り出して、新しい燃料として再利用するプロセスです。多くの場合、MOX燃料として再加工され、専用の原子炉で再利用されます。
日本は以前から「核燃料サイクルの閉じた形(クローズドサイクル)」を目指しており、使用済み燃料を何度も再利用することを基本方針としています。茨城県の東海再処理工場や、青森県六ヶ所村の再処理工場はその中心的施設です。六ヶ所再処理工場は現在も試運転段階にありますが、すでに総事業費は2.9兆円を超え、日本のエネルギー自立への強い意思を象徴しています。
フランスは核燃料リサイクルの先進国です。ラ・アーグ再処理工場では、年間約1,700トンの使用済み燃料が処理されており、その一部はMOX燃料として国内の原発に再投入されています。フランスの原子力発電のうち、約10%が再処理された燃料によるものです。
日本はフランスと連携しながら、独自の再処理体制を確立しようとしています。六ヶ所再処理工場が本格稼働すれば、年間800トンの使用済み燃料を処理できる予定です。MOX燃料はすでに高浜原発や玄海原発で使用されており、今後も他の再稼働炉で導入が進む見通しです。
核燃料リサイクルには多くのメリットがあります。第一に、廃棄物の量を大幅に削減できます。日本の原子力委員会によれば、再処理により高レベル廃棄物の量を最大75%削減できるとされています。また、毒性の持続期間も、10万年から約8,000年にまで短縮される可能性があります。
第二に、資源の有効活用です。全量を輸入に頼る日本にとって、再利用は燃料自給率を高める手段でもあります。さらに、再処理によって新たな最終処分場の必要性も緩和されます。実際、日本では何十年にもわたって最終処分場の選定が難航しています。
第三に、長期的にはコスト抑制にもつながる可能性があります。初期投資は大きいものの、ウランの再利用によって国際的な資源価格の影響を受けにくくなります。日本のウラン輸入量は、ある年には9,000トンを超えたこともあり、再処理による依存度低下は経済安全保障にも貢献します。
最後に、社会の見方を変える力もあります。原子力=廃棄物という図式ではなく、循環型エネルギーシステムの一部としてとらえることで、信頼の再構築にもつながるかもしれません。地域住民との丁寧な対話や透明な運営は、その鍵となります。
大きな可能性を秘めているとはいえ、すべての核廃棄物が再利用できるわけではありません。使用済み燃料の中でも、核分裂生成物などは非常に高い放射能を持ち、厳重な長期管理が必要です。再処理をしても、数千年単位での安全な保管が求められる残余廃棄物は存在します。多くの国と同様、日本でも深地層処分が最適とされていますが、最終処分地の決定にはいまだ至っていません。このような現実が、多くの人が原子力に対して不安を抱く理由のひとつです。
再処理はまた、安価ではありません。六ヶ所再処理工場は30年以上にわたり20回以上の延期を重ね、「挑戦と葛藤」の象徴ともいえます。費用、核拡散リスク、技術的難しさ──課題は山積です。福島の事故以来揺らいだ国民の信頼も、いまだ完全には回復していません。
それでも、日本は投資を続けています。高速炉や溶融塩炉といった新技術によって、将来的にはより安全で効率的な再処理が可能になると期待されています。アメリカとの先進炉開発プログラム(ARDP)など、国際連携も進んでいます。
一方、アメリカでは、使用済み燃料は基本的に「廃棄物」として処理され、原発敷地内で保管されているのが現状です。ただし、HALEU(高濃縮低濃度ウラン)を活用する先進炉が注目される中で、再処理への再評価も始まっています。
世界全体でも、単純な「使い捨て」方式から、「循環型」への見直しが進んでいます。完全ではなくても、価値を取り戻し、廃棄物の長期リスクを減らす道は確かにあります。
日本、そして他国にとっても、使用済み燃料のリサイクルは単に「廃棄物を減らす話」ではありません。エネルギーの安定性や持続可能性を高め、脱炭素化を進めるうえで、ますます重要な選択肢となっています。
政府の第6次エネルギー基本計画では、2030年までに原子力を電源構成の20〜22%とする方針が示されています。その達成には、リサイクル技術の確立が欠かせません。
そして近年では、日本の若手研究者やスタートアップ──たとえば京都フュージョニアリングやクリーンプラネットのような企業──も、より持続可能で柔軟性のある原子力のあり方を提案しています。こうした新しい視点こそ、次の時代のクリーンエネルギーを形作るカギとなるかもしれません。
もはや「廃棄物」と呼ぶ時代ではないのかもしれません。今こそ、核のエネルギーを「使い切る」発想で、未来に向けて循環を閉じるときです。