2026年8月に東京で開催されたClimateLaunchpad Japan National Finalsでは、序盤の議論のひとつで原子力や小型炉の話が出ていました。気候問題について考えるとき、私はもともとエネルギー、特に原子力から入ることが多いので、自然と関心を引かれました。ところが、その後の数時間で会場のテーマは一気に広がっていきました。半導体、モロッコの洪水対策、日本の地方にある空き家、そして東京でよりサステナブルな店を探すためのアプリまで登場しました。
各チームは審査員の評価を競い、次のステージに進むことを目指していました。ただ、扱っている課題はあまりにも違っていて、技術そのものを横並びで比べることには少し無理があるようにも感じました。
半導体の発表がその一例です。その会社は、チップの消費電力と発熱を抑えながら、サイズや性能などで通常求められるトレードオフを小さくできると説明していました。EVやAIデータセンターの話も出てきました。そこではチップそのものがどれだけ電力を使うかだけでなく、発生した熱を冷やすためにさらにどれだけエネルギーが必要になるかも重要です。発表者は、昔のPentium 4時代のPCが非常に熱くなったことまで引き合いに出し、熱管理がどれだけ大きな問題になり得るかを説明していました。
もし主張どおりの性能が出るのであれば、イメージはしやすいと思います。同じ計算をするために必要な電力が減り、発生する熱も少なくなれば、データセンター全体の消費電力や冷却負荷も下げられる可能性があります。ただし、審査員が気にしていたのは性能の話だけではありませんでした。知的財産はどこから来ているのか。なぜ大手の半導体企業ではなく、この会社の技術に優位性があると言えるのか。発表者は、経験豊富なエンジニアが社内で開発した技術だと説明していましたが、技術的な優位性が本当にあるのか、そして長期的に守れるのかは別の問題です。
その後に登場したのは、日本とモロッコの両方で経験を持つランドスケープアーキテクトでした。こちらの提案はもっと目で見て分かるものでした。日本で使われているような洪水対策用の防水パネルをモロッコに導入し、浸水しやすい建物や施設を守るというものです。基本的な発想は単純で、水が来る前にパネルを設置し、建物の中に入れないようにするというものでした。
発表で使われた写真も印象的でした。ひとつの建物は浸水しているのに、もうひとつは入口に設置されたパネルによって守られている。空港、港、電力関連施設、ホテルなどが初期の対象として挙げられていましたが、こうした場所では一度水が入れば、設備が壊れるだけでなく、営業や物流が止まり、その影響が何日も何週間も続くことがあります。
ここで審査員のひとりが、保険会社と組んではどうかと提案しました。この話はとても分かりやすいものでした。晴れている年に倉庫の持ち主が洪水対策にお金を使うのは後回しになりがちです。一方、保険会社は実際に洪水が起きた後、どれだけ大きな損害が出るかを見ています。もし防水パネルで被害額を減らし、施設の操業停止も防げるのであれば、導入を広げたい理由は施設側だけでなく、保険会社側にも生まれます。
その数件後には、話題は再び日本に戻り、今度は空き家でした。Akiya Homesのチームは、全国にある大量の空き家の一部を、再生可能エネルギー、農業、エコツーリズム、環境関連のプロジェクトなどと結びつけることを考えていました。
発想の魅力はすぐに分かります。使われていない家がもう一度使われ、プロジェクト側は比較的安い場所を確保でき、人口が減っている町にも新しい活動が生まれるかもしれません。ただ、審査員のひとりは家の外側にある問題を指摘しました。空き家が増えている地域の多くでは、すでに仕事や人口そのものが減っています。若い家族が移住を考えるとき、家の値段だけを見るわけではありません。子どもが通う学校はあるのか。仕事はあるのか。病院までどれくらいかかるのか。その町で生活を続けていけるのか。そうしたことも当然、判断材料になります。
空き家の屋根に太陽光パネルを載せたり、環境プロジェクトの拠点にしたりすることで、その一軒に新しい役割を与えることはできます。しかし、それだけで周囲の地域が抱えている問題まで一気に解決するわけではありません。発表者側は、成功するプロジェクトが増えれば新しい活動がさらに呼び込まれると考えていましたが、審査員は、本格的な地域再生まで目指すのであれば、自治体やほかの機関も関わる必要があるだろうと指摘していました。
Nearby Findsは、さらにスケールを小さくし、今度は東京でどこに食べに行くか、どこで買い物をするかという日常的な判断を扱っていました。チームは渋谷、新宿、目黒などから始め、地図やレビュー、店側の自己申告だけではなく、環境面でも店を比較できるようにしたいと考えていました。彼らの顧客調査では、サステナビリティは価格やレビューがすでに近いときに、より重要な判断材料になる傾向があったそうです。つまり、環境負荷の低い方を選びたいと思っていても、実際には東京の街中で、時間と予算を気にしながら、目の前の二つの店からひとつを選んでいるわけです。
Nearby Findsのビジネス面については、別の記事「Testing Climate Innovation」でより詳しく書きました。ここで印象に残ったのは、一つ前まで話していた問題との距離です。ほんの数十分の間に、チップの電力と熱の話から、倉庫に入ってくる水の話、誰も住まなくなった家の話、そしてどのカフェに入るかという話まで移っていきました。
休憩に入るころ、司会者自身も、その朝に何が出てきたかを思い出しながら笑っていました。原子力、半導体、洪水、空き家、Nearby Finds。すべて同じセッションの中で扱われていました。
もちろん、競争はあります。政府の予算には限りがあり、投資家は資金の行き先を選びます。優秀なエンジニアが同時に関われるプロジェクトにも限界がありますし、世の中の関心も無限ではありません。気候分野の技術やプロジェクトは、違う問題を扱っていても、資金、人材、土地、政治的な支援をめぐって競争することになります。
ただし、資源を奪い合っていることと、同じ仕事をしようとしていることは別です。より効率の高いチップはデータセンターの必要電力量を減らせますが、データセンターそのものには安定した電力供給が必要です。洪水対策は倉庫を守れますが、その倉庫に電気をどう供給するかは別の話です。空き家に新しい使い道を与えることは地域にとって意味がありますが、そこに人が住み続けるためには交通、インフラ、エネルギー、公共サービスなども必要になります。
原子力も、こうしたつながりの中にあります。安定した低炭素エネルギーは、工場、鉄道、データセンター、住宅、地域への新たな投資など、さまざまな経済活動を支える基盤になります。また、技術や用途によっては、原子力の役割は発電だけに限られません。一方で、機器や半導体の効率が上がれば、そもそも必要な電力量を減らすことができます。さらに、どれだけ安定した電力があっても、洪水で工場が止まったり、交通が機能しなかったり、人が住み続けたいと思える地域でなければ、経済活動は成り立ちません。
つまり、それぞれの話は完全に別々なのではなく、実際の社会の中では重なり合っています。たとえば工場が新しい地域への投資を検討するとき、電力の安定性だけを見ているわけではありません。道路や物流が機能するか、洪水リスクはどうか、人材を採用できるか、その人たちが周辺で生活できるかといったことも一緒に見ています。
東京で見た発表を振り返ると、ひとつの「気候技術」を選ぶ競争というより、それぞれが経済や社会の違う弱点に入り込み、そこを少しでも良くしようとしているように見えました。
司会者が発表の順番を思い出すのに少し苦労していたのも、ある意味ではその日の内容をよく表していたのかもしれません。原子炉から半導体へ、半導体から洪水へ、洪水から空き家へ、そして最後には東京でどの店を選ぶかという話まで進みました。テーマはばらばらに見えても、具体的な場面まで落とし込むと、それぞれが同じ社会の中の違う部分に触れていることが分かります。電気を安定して使えるようにすること、消費電力を減らすこと、水を建物の中に入れないこと、人が住みたいと思える町をつくること、日々の買い物で少し違う選択をすること。そのどれか一つがすべてを解決するのではなく、それぞれが現実の中で役に立つ場所を見つけられるかどうかが重要なのだと思います。